“特定の大人”は母親だけ?
#赤ちゃんの働きかけに応じて育む信頼関係
赤ちゃんがすこやかに育つためには、生まれてから最初の1年間に、いつもやさしく大事に世話をしてくれる“特定の”大人との間に愛着関係ができることが必須です。多くの場合、ずっと赤ちゃんのそばにいて、泣いたらミルクやおっぱい、抱っこをしてくれるのは母親だと思いますが、最近の家族事情は多様化しているので、母親でない場合もあるかもしれません。でも、心配する必要はありません。
過去には、”特定の大人“は母親であるべきだという考え方が広まっていました。それは、第二次世界大戦後、戦争孤児の発達の遅れを心配した世界保健機関(WHO)の依頼で、イギリスのボウルビィという小児精神科の医師が行った調査が元になっています。戦争孤児の施設ではミルクがちゃんと提供され、清潔を保って赤ちゃんが育てられたにもかかわらず、情緒障害や言葉の遅れといった精神性の発達の問題がたくさん見受けられたのです。ボウルビィは、その原因を、「赤ちゃんが母親から引き離されたこと」と結論しました。
ところが、ボウルビィの調査結果を詳しく分析し直した結果、母親から引き離されたことが原因ではなく、「特定の大人」との愛着関係を結ぶことが出来なかったことが原因だったことが明らかになったのです。この結果は他の調査結果からも裏付けられています。
赤ちゃんにお母さんの愛情をしっかり注いで育てることは素晴らしいことです。でもそれがお母さんの愛情でなければ赤ちゃんの発達に問題が生じるということではありません。お父さんでもおばあちゃんでも、あるいは保育士さんでも、赤ちゃんに愛されていることを感じさせることが出来れば、赤ちゃんはすくすくと育つのです。
- お話をお聞きした先生
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小児科医お茶の水女子大学 名誉教授榊原 洋一 先生
専門は、小児神経学、発達神経学など。子どもの心と体の発達に関する著書多数。日本子ども学会理事長。発達障害研究の第一人者であり、現在も子どもの発達に関する診察、診断、診療を行う。