小児外来便り その1
赤ちゃんが「~してくれない」と思ったら
小児外来で多くのお母さんたちの相談に乗って15年以上になりました。
外来でよくある相談のひとつに「寝てくれない」「ひとりで遊んでくれない」「飲んでくれない、食べてくれない」などの「~してくれない」があります。「赤ちゃんが疲れて寝てくれるようにベビースイミングに通っています」という話や、「YouTubeを見せて赤ちゃんの気を引き、離乳食を食べさせています」という声などもよく聞きますが、それに対する私たち専門職からの返答は、お母さんの苦労をねぎらったあと、「規則正しい生活をしましょう」とか「午前中に外遊びをしましょう」といったアドバイスになることがよくあります。「それがスムーズに出来るなら苦労しません・・・。」というお母さんの心の声が聞こえてきそうですね。
赤ちゃんを一日一人でお世話していると、赤ちゃんのためを思ってしているのに、こちらの思いや苦労を全く意に介さず、ちっとも協力してくれない赤ちゃんに心が折れそうになってしまうことがあります。
こんなとき、気持ちをどう切り替えるとよいのでしょうか。
最近、『Baby-Led Weaning』※1という離乳食の方法(理論に近い)を必要に応じて紹介することが増えました。日本語で〈赤ちゃん主導の離乳法〉と呼ばれており、離乳食を食べるに際して、主導権を赤ちゃんに持ってもらうという考え方です。この考え方の詳細は書籍を参照していただくのがよいかと思いますし、日本にもBLW協会※2というものもあります。関心を持っていただいた方は是非調べてみてください。
※2 一般社団法人BLW協会 https://babyledweaning.or.jp/
「赤ちゃんに主導権を持たせる」という考え方を、もっと赤ちゃんとの暮らし全般に取り入れることができれば、育児はもっと楽しいものになるのではないかと考えています。赤ちゃんのお世話がうまくいかないと感じるとき、「赤ちゃんが~してくれない」ととらえるのではなく、赤ちゃんに主導権があると考えてみるのはどうでしょう。赤ちゃんのことは「赤ちゃんが始める」から、それを待ってそれに寄り添ってお世話をしていくという考え方に切り替えてみるのです。
赤ちゃんはとても感覚的な生き物なので、全身で見たい、触りたい、なめたいという強い気持ちで動きだし、そこにあるものを視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚を通して知り、心が動きます。心が動いたときに、同じことで心を動かしてくれる他者の助けをかりて自分自身と自分の置かれている環境について学び、発達していきます。
周りの大人ができることは、発達に適した環境や機会を提供することと、赤ちゃんからの発信に一緒に心を動かし、言葉や表情を使って共感することです。それは、食べるときも遊ぶときも同じです。
赤ちゃんから始まった活動に、お母さんや周りの人たちが良い関わりを持つようにすることが、子どもの発育発達のためにはとても大切なのだと思います。「~してくれない」と思ったら、是非、この考え方を思い出してみてください。
- お話をお聞きした先生
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小児科専門医ありたき小児科有瀧 愉子 先生
小児科医として診療を続けて20年以上。赤ちゃんや子どもの現在と未来の両方を大切にして、子育てに奮闘する方々の力になれるよう心がけている。