改めて知ってほしい。妊娠中の生活リズムの大切さ。
子どもの睡眠の問題を長年研究してきた結果として、わかってきたことが幾つかあります。少し耳が痛い話もあるかもしれませんが、現代の生活のスタイルを批判しているという捉え方ではなく、生まれてくる子どもたちと保護者の健康と幸せを守るための情報としてとらえて頂きたいと願っています。
ヒトの1日の体内時計のリズムは、睡眠・覚醒リズムの他にも、自律神経、体温調節、ホルモン分泌、免疫など、全ての生命維持機能を統括している重要な働きを持っています。この1日の体内時計リズム形成が始まるのは胎児期にさかのぼります。母親のおなかの中で成長していく赤ちゃんは、当然、母親の生活リズムに大きな影響を受けながら、自分の体内時計を作っていきます。妊娠中の母親の生活リズムがおなかの中の赤ちゃんが成長していくプログラミングに影響を及ぼし、生後まもなくから、あるいは、すぐには影響が現れなくとも成長につれて赤ちゃんの心身健康上の問題が生じ始めるケースがあることもわかってきました。
研究結果の例を少しお話しします。妊娠中の母親が、1)毎日24時を過ぎて寝る習慣がある、2)食事時間がバラバラで不規則である、あるいは、3)糖尿病がある などの場合、新生児期の生活リズムが整わず、寝つきが悪い、眠りが持続しない、日中の不機嫌と泣きが多いなど、いわゆるイライラ型と呼ばれる睡眠状態が生じました。この状態は将来に自閉症スペクトラムにつながるリスクもあります。
また、交代制勤務・タイムゾーンを超えたジェット機旅行・不規則な食事時間・極端な夜更かしなど妊娠中の最適ではない環境は、母親の体内時計の乱れを引き起こすとともに子どもがその影響を受けて、その後の人生でさまざまな慢性疾患を発症するリスクを高めることも報告されています。そして、最近では、妊娠中の母親の夜間睡眠時間が6時間よりも短い、あるいは逆に10時間以上と長すぎる場合、3歳児の自閉症スペクトラム(ASD)診断率が、夜間睡眠時間7−8時間の母親に比べてリスクが高くなるという報告も出てきました。
つまり、夜更かし・睡眠不足は母親にとっても子ども達にとっても心身の健康維持には不向きであり、避けるべき生活リズムということになります。今、まさに妊娠中の皆さん、できるだけ夜12時までに就寝し、睡眠時間は6時間以上を確保するとともに、毎食を規則的にとるといった基本的な生活習慣を続けることを心がけてください。それが実はとても大事なことであることを改めてメッセージとして送りたいと思います。
Miike T, et al. Neonatal Irritable Sleep-Wake Rhythm as a Predictor of Autism Spectrum Disorders. Neurobiol Sleep Circ Rhythm. 9 (2020) 100053
Hsu CN, Tain YL. Light and Circadian Signaling Pathway in Pregnancy: Programming of Adult Health and Disease Int JM ol Sci. 2020 Mar; 21(6): 2232.
Kazushige Nakahara, Takehiro Michikawa, Seiichi Morokuma, Norio Hamada, Masanobu Ogawa, Kiyoko Kato, Masafumi Sanefuji, Eiji Shibata, Mayumi Tsuji, Masayuki Shimono, Toshihiro Kawamoto, Shouichi Ohga, Koichi Kusuhara & the Japan Environment and Children’s Study Group. Association of physical activity and sleep habits during pregnancy with autistic spectrum disorder in 3-year-old infants。Commun Med (Lond). 2022 Apr 5;2:35.doi: 10.1038/s43856-022-00101-y. eCollection 2022.
- お話をお聞きした先生
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小児科医熊本大学 名誉教授三池 輝久 先生
専門は、小児神経学、小児の睡眠など。日本眠育推進協議会理事長。30年以上にわたり子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動に力を注ぐ。