知っておきたい、妊娠中の骨盤の痛み
「骨盤」について、これまであまり意識することはなかったかもしれませんが、妊娠によるからだの変化をきっかけに「骨盤」の痛みが起きてしまうことがあります。骨盤の痛みに悩まずに済むように、基本的な知識を知っておきましょう。
「骨盤」とは?
「骨盤」は、左右に張り出す大きな「腸骨」と中心にある三角形の「仙骨」、前側の下にある「恥骨」、一番下にある「坐骨」で構成されます。(図1)「骨盤」の役割は内臓や生殖器を支えて守ることと、上半身と下半身をつなぎ、安定した動きを出すための体の土台となることです。妊娠をきっかけに起きる骨盤の痛みは通常、妊娠中の正常な変化によるもので、妊婦さんの45%、産後6~8週間のママの25%に腰痛か骨盤痛があるという報告※1があります。多くは妊娠18週ごろに発症し、妊娠24~36週の間で症状が強くなることが多いようです。
骨盤の痛みの理由
妊娠中の背中・腰の痛みや骨盤痛が起こる理由は大きく2つあります。1つは、妊娠による姿勢の変化に起因するもので、もう1つは骨盤のゆるみが大きくなる不安定性に起因するものです。
1つ目の姿勢の変化とは、妊娠が進み、おなかがだんだんと前にせり出すと、からだの重心は前方へ移動します。それを支えようと腰を張ったり、骨盤の前傾(または重さを受けるための骨盤の後傾)が生じたりすることで、仙腸関節に負荷が生じ、これが骨盤の痛みにつながっていくのです。(図2)
2つ目の骨盤のゆるみは、妊娠すると出産にむけて筋肉やじん帯をゆるめるホルモンが分泌され、関節も柔軟化することに関係します。骨盤がゆるむと、骨盤にかかる力を受け止める余力が低下し、不安定になり、骨盤痛が起きるとされています。
骨盤の痛みへの対処法
骨盤が不安定になることによる痛みであれば、骨盤ベルトなどを使用して骨盤を支えることが痛みの緩和に有効だといわれています。骨盤ベルトと組み合わせて運動を行うことも、痛みの軽減に効果があります。
運動は、ウオーミングアップ、有酸素運動、ストレッチ、リラックスなどを単独で、あるいは組み合わせて30~60分程度を週に2~3回程度行うことが推奨されています。専門的な知識を持っている助産師さんや理学療法士に相談して指導を受けるのも良いと思います。
骨盤ベルトを使う場合は、恥骨とおしりの下で固定し、正しく装着してください。装着方法が間違っておられることも多いようです。図3に簡単な図を示しますが、固定場所がわかりにくい場合は、産婦人科や助産師さんに訊ねてみてください。正しい骨盤ベルトの位置を教えてもらえます。
また、痛みは本当の骨盤痛や腰痛だけでなく、心の問題が大きく関わっている場合もあります。妊娠中は、積極的な気分転換を心がけて、心のリフレッシュをはかりましょう
最後に姿勢のリセットと骨盤底筋の強化、尿失禁の予防につがなる、簡単なセルフエクササイズ※2をご紹介しておきます。無理のない範囲で、適度な運動を取り入れてみてください。
※2 須永康代:産前女性への理学療法アプローチ.PTジャーナル 56(4),455-458,2022
- お話をお聞きした先生
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理学療法士順天堂大学 保健医療学部理学療法学科 先任准教授松田 雅弘 先生
発達系理学療法学、子どもの運動障害の研究が専門。子育てサポートとして母親の抱っこひもの腰の負担を測定する委託研究にも取り組んでいる。